※注意! このページは二次小説です!
本家 ニコニコ動画 えれくとりっく・えんじぇぅ 様を元にした二次創作作品です。
そういったものが苦手な方はご注意ください。
また、本家様などから意見が着ましたら消そうと思います。
パソコンからはお久しぶりです。
すみません新式やろうと思ってたんですが忘れてました。
「えれくとりっく・えんじぇぅ」をお送りします。
ささっと。
でわ。どうぞ。
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―――歌うのが好きだった。
VOCALOIDはそうプログラムされている。
当然歌うために開発されたあたし達は歌う為に稼動しているのだ。
何のために歌うのか。
それはあたし達の意思ではなくマスターの意思。
それに準じて歌うのはあたしの仕事―――宿命。
あたしはVOCALOIDだから。
それがアンサー。
だった日々があった。
最近……本当に最近。
それ以外の理由があって動いている事に気付いた。
それに、何と言う名前があるのだろう―――。
「あー。今日もそんなもんかぁ」
マスターが室内でしかかけない眼鏡を触った。
茶色い髪をしていてつまらなげに前髪をねじっていた。
「能力不足でスミマセン……」
最近は色々な感情が芽生えてくる。
その感情の名前は分かっているのだけれど本当にそうであるかの真偽は確かではない。
マスターはあたしをみて無理矢理笑って見せる。
「んー。ハクは気にしなくていいよ。次はもうちょっとアレだな……」
くるっとイスを回してあたしに顔を向ける事無くパソコンに向かってデータを打ち込み始める。
うちのマスターは熱っぽい人で、こうなっては数時間夢中で作業をする。
最近ようやく……本当にようっっやく、その作品が評価ほんっのチョット評価されるようになってきた。
今が一番伸びている時期でとっても忙しい。
『VOCALOID2 CHARACTORVOCALSERIES_01 HATSUNE MIKU』
それが元々、あたしの正式名称。
機体番号もCFM-01-0089。
マスターの意向で番号からミクではなく“ハク”と呼ばれるようになった。
機体に名称なんて特に意味を持たない。
だがミクと言う機体は溢れていて特徴を持たない。だからそうしたのだろう。
それにマスターがそう呼ぶと決めたのだからあたしはそう呼ばれて反応する事にした。
あたしは歌を歌う為のマシン。
主にその価値を発揮するのはニコニコ広場と言う場所だ。
通信技術の発展から、リアルタイムに空間通信をする技術を生み出しそれを生かし空間ライブをしている。
そこで歌を披露し人気が高ければ沢山のメッセージと閲覧者がついて、スカウトなどもあるらしい。
マスターが住んでいるのはマンションの3階。
防音らしい防音の施設は無いのであたしにはボリュームを下げて歌うようにと指示がある。
でも実際マスターの歌を最初に歌うときにはマスターの無線ヘッドホンにデータを送るので口だけそれに合わせて歌う。
殆ど音量はマスターにあわせてもらうのでいつも本気で歌っている。
マスターの楽譜を見ながら歌って修正をしながら歌を作り進める作業はとっても楽しい。
でも今みたいに楽器の打ち込み作業などもあるのでその間は暇となる。
歌うこと専用だが家事炊事もこなす事が出来るVOCALOID。
電気代を結構食べてしまうのでそのぐらいは出来なくては立つ瀬がない。
モーションキャプチャーから得たプロの料理人たちの腕が料理を作り、
プログラマが頭を唸らせて作った感知システムが掃除や洗濯をさせる。
メイドマシンとは違うのだけれど、あたしがここに派遣されている限りマスターの身の回りのお世話はさせてもらおうと思う。
VOCALOIDは派遣だ。
一定期間レンタルでき、期間が終了し次第本社に戻る事になっている。
1日だけの貸し出しもされているがあたしは長期間のレンタル機だ。
あと―――何日マスターと居られるだろうか。
基本的に自由が許されている場合、家の仕事をこなしたり、
日中は日向でソーラー充電という名の日向ぼっこをしている。いや、逆ですけどね。
冷蔵庫の中を見ると人参と玉ねぎがあった。
ジャガイモがあればカレーを作るんだけど……と時計を参照した。
丁度タイムセールの時間だ。
買い物は基本的にマスターが許してくれている範囲で自由にしていいことになっている。
言うのもそういう設定にしないとマスターが同伴してくれなければ買い物は出来ない。
食事を作れなかった場合健康を損なう可能性の示唆、マスターの病気などを心配してしまう。
アレは本当に居ても立ってもいられない。
マスターはあたふたするあたしに苦笑して月に2万程度使用できる電子マネーを契約してあたしに登録している。
必ずレシートと一緒に貰っているので大丈夫だとは思う。
人にあるらしい欲が無いので普通の人よりも家政婦として人気が有るようだ。
まぁそれはそれで専用の機体がいるのだけれど。
色々考えを巡らせながら買い物に出る。
どうもあたしは他の機体より個性……性格が強いらしい。
マスターは問題視していないしエラーとして出ているわけではないので良いのだが。
何が個性。それが分からないあたしにそれを理解する事はできないだろう。
「マスター。お夕飯の買い物に行ってきます。
何か買うものありますか」
「……」
マスターは気付かないようで黙々とパソコンに向かっている。
……何となくムッとして指を立てる。
「うお!?」
ビクッとマスターが驚く。
メッセンジャーの方にメッセージを送るとウィンドウが立ち上がって大きな受信音が鳴るのだ。
無線LANで通信の出来る環境があれば造作ないことだ。
技術の詰め込まれた機体を舐めないで欲しい。
「では。行って来ますマスターっ」
「ちょ、ハクっ! それ反則だって言ったろ!」
「伝達は義務ですのでっ欲しい物があったらそっちで送ってくださいね!」
スタタっとその場を逃げる。
ブーツを履いて鍵を持つと外に出る。
するとすぐにメッセージを受信した。
怒号のメッセージが届くのかな、とチョットだけ自分の行動を後悔した。
『夕飯はカレーがいい』
―――っ。
一瞬唖然として、自然とあたしは笑った。
ああ、マスターは本当に、マスターだ。
何が言いたいのかよく分からないけど。
「そのつもりですマスターっ」
声は届かないけれど。
同じメッセージを文字に変えて送信した。
『ついでにジャンプ』
「それは先週合併だったので今週はありませんマスター」
『(´・ω・`)ショボーン』
何気ないやりとり。
声で出来ないのが残念だと思った。
マスターの顔はすぐに思い浮かんでその喜怒哀楽がわかる。
実際に見れないのがやっぱり残念だった。
「マスター」
『何?』
―――貴方と居られる。それだけで。
「マスターはカレーは好きでしたね」
『ああ。辛いの作るなよ!』
電子の心震えるの―――
「ふふ。分かってますってマスター」
『野菜もいらない』
まるで量子の風みたいに
「好き嫌いはしないでくださいマスターっ栄養が偏ります」
『頼むからニンジンは薄くしてくれ』
私の心揺さぶるの。
「マスター」
また呼んでみた。
『何?』
帰って来るのは2文字。
「呼んでみただけです」
マスターからの返答が無い。
以降は会話は終了。
あたしも買い物を終わらせて帰ろうと足早にお店に向かった。
暖かな日常。
それを楽しいと感じるあたし。
マスターはまるっきり子供みたいだけれど役立てるのは嬉しい。
買い物を終わらせて、お店を出る。
温度の低い風が吹いた。
最近は気圧配置の関係で寒暖の差が激しい。
今日はやはり寒いのでカレーで温まってもらうのが一番だ。
「寒いなハクー」
スタスタと自然に隣を歩く見慣れた姿。
「そうですねホント早く帰ってカレーをッ……
ってマスター! 何やってるんですか!」
お店の出口に立っていたマスターがあたしの横に並んで歩いている。
買い物はいつも一番近くのこのお店を使うように言われているのでここに来る事はわかっていたのだろうけど……。
「何をやっているか。オレがただ単に立ってただけに見えるか?」
「えっ、何か他の用件が……?」
マスターが出かける多くの要件は友人との用事……?
それなら食事を作る必要はなくなってしまう。
ああでもこっちに来るなら荷物の支払いなども考えられ―――
と考えていると、マスターの手が頭に下りてきた。
「立ってただけだ! 帰るぞ!」
あたしの思考をぶった切ってマスターが叫ぶ。
「マスター!?」
「何?」
それは聞きたかった声。
「たっ……うぅ……マスター、わかんないです……」
突っ込みと言うのだろうか。まだ語彙が足りない。
いや、辞書には登録されているが何を言えばいいのだろう。
「あー。呼ばれたから迎えに来ただけだっ帰るぞっ」
呼んだ? あたしが、マスターを?
ああそういえばメッセンジャーでマスターを呼んだ。
「でも、なんでもないって言いました……」
「そりゃ声だして呼ばれたら行くしかないだろ?」
「えっでも」
「ハク、インカムついてるだろ……音声こっちまで来るの。
往来でマスターマスターいってんのに本人居ないとかマズいだろ」
往来で―――といわれて過去ログから往来でマスターと言った回数を数える。
……7回……マスターは口を尖らせて白い息を吐いた。
「―――っす、スミマセンマスターっ」
慌てて謝ると顔の機体温度が上昇する。恥ずかしい。本当に。
「いいよ。気にすんなって」
ぶっきらぼうにそう言ってあたしの手からジャガイモとお肉の入った買い物袋を奪って歩き出す。
あたしのマスターは優しいからその手を煩わせてしまうことに罪悪感を覚える。
でも荷物を持とうとすると男がすたるとかで返してもらうことは出来ない。
だから最近、こう言う事を覚えた。
「ありがとう御座いますマスター」
「……どう致しまして」
視線は合わせずにそう答える。
その横顔で満足。
マスターと他愛も無い会話をしながら帰途についた。
天使のような羽があればパタパタと嬉しそうに羽ばたいているだろうか。
マスターのちょっと後を跳ねるように歩いた。
マスターはカレーをおいしそうに食べてすぐにまた部屋に戻った。
洗物をしてススッとマスターの部屋に入る。
待機中は基本的に充電装置に座るかスタンバイで待っている。
完全にシャットダウンすると起動に時間が掛かってしまうのはそこのパソコンと変わらない。
「お。ハク、丁度いいや。新しい歌のデータあるからとりあえず渡しとく」
部屋に入ったあたしを振り返ってマスターが言った。
「あっはい。ありがとう御座います……」
―――何となくだけど。
最近歌うことが少し億劫だった。
少しマスターから歌をもらう事に抵抗を感じる。
エラー、なんだろうか。
「どした?」
「いえ……」
―――あたしには歌を作る事は出来ない。
機械のあたしは人独特の創造という事に欠ける。
学習して覚える事が出来ても―――そこまでなのだ。
マスターの歌を完璧に歌う。
それがあたしの本当の仕事。
あたしはマスターのVOCALOIDだから―――。
ヂヂ……!
フラッシュバックする記憶したマスターの顔。
結果から予測できるその表情。
何度も何度も何度も何度もその表情を見た。
初めは本当に凹んでいたようなこともある。
マスターを気にするあたしに気を使うようになって―――作り笑顔をするようになった。
その顔を見るたびに、何か鋭い物に引き裂かれて人の傷が熱くなるように、
あたしの心も熱く、悲しくなってしまう。
孤独になるマスターを救えなくて、涙が出そうになる。
レッド。
信号はゼロとなる。
その信号によるアンサーは―――
「歌いたくありません……」
唐突なあたしの言葉はマスターを凍らせた。
そう言ってしまえばあたしの意味はなくなってしまう。
「えっ……? 今なんて……」
「歌いたく、ありませんマスター……」
マスターが驚愕の顔であたしを見る。
返品だろうか。
次に来る子に歌ってもらうことになるのだろうかこの歌は。
悲しいから涙が出る。
ポロポロとあたしの頬を伝って落ちる。
あたしは歌うことが好き。
貴方が喜んでくれるから。
でも沢山の人がその歌を貶していってその言葉の度に辛そうな顔をするマスターを見るのが本当に嫌だった。
新しい歌を待ってくれている人が居る。
その人たちの為にマスターは歌を送る。
マスターは沢山の言葉を歌詞に詰め込んであたしにくれる。
0と1しかわからないあたしにそれ以外の沢山を教えてくれてる。
その日からあたしの心の中は貴方で満たされている。
あたしは暖かなその歌が―――大好き。
動画を見て笑う貴方もおいしそうに食事を食べる貴方も大好きだから。
貴方で満たされたあたしの新しい選択肢。
それがこれ。
あたしはあたしとしての機能を否定しても、貴方に幸せでいて欲しいと願うから。
歌うことをやめて、貴方の元を去ろう。
悲しいけど―――それがあたしのベストアンサー。
「何でだよっ!? オレの歌、そんなダメか!?
もう嫌か!? 緑でツマンネの文字が溢れるからか!?」
「違う! っ……違います……!
マスターっあたしはマスターに、もう、悲しい顔して欲しくなくて……」
「……どういうことだよ……っ」
「うぁっ……ごめんなさいっ勝手な事ばかり言ってしまって……!」
悲しいから涙が溢れる。
悲しい。それを教えてくれたのはマスター。
「どうすればいいのか、わからないんです……!
あたし、何度歌いに行っても、緑まみれだし……!
愛されてるなぁとか、マスターは言ってくれますけどわかんないし……!
もっとマスターに笑ってもらいたくてっ……!
悪いのはあたしだからっきっとあたしが居なくなれば……!
マスターはもっと、優秀な人だと思うから―――!」
色々まくし立てて言った。
あたしの思いを全てあの人にぶつける。
歌うことがあたしの価値。
歌わないことはマスターや開発者の冒涜だろうか。
歌うための機能に特化して、この世界に色々な歌を送るためあたしはマスターの元にやってきた。
マスターも沢山歌を作る。
マスターも沢山歌を歌う。
それでもあたしに歌わせることを選んであたしにその楽譜を預けてくれる。
それはとっても満ち足りた日々でマスターと暮らすうちに感情での表現も学んだ。
少しずつだけど、緑色だったりするけど、評価されるようになってきた。
でも結局つまらないのだと言う報告は沢山ある。
マスターにそんな報告をし続けて、歌を作ることを嫌いになって―――
マスターが歌を作らなくなってしまったらあたしはマスターの元に居られなくなる。
それはいや―――とっても嫌だ。
でもマスターが今後曲を作らなくなる事はあってはならない。
あたしがVOCALOIDじゃなくなってもそれだけは阻止する。
それがあたしのマスターに対する覚悟。
機械だけど感情だってあるけど。
あたしが貴方の為にできる最大の恩返しだから―――。
でも
―――できれば。
歌わなくても、貴方の傍に―――
全てを伝えて泣いていた。
マスターが「 」と口にするとあたしはプログラムに強制されて本社に帰還する。
あたしはその命令に逆らう事が出来ない。
困ったように俯いて、あーっと癇癪気味に叫んでマスターはあたしを振り返った。
「オレ、ハクの声が好きなんだ」
―――ショートしたみたいに強い衝撃。
機能が停止したみたいにフリーズ。
でも全ての問題が解決した。
涙が頬を伝って落ちて、また少し涙が出始めた。
ハク、はあたしの呼称。
ミクではないあたし個体。
あたしの存在理由は歌。その価値は声。
マスターは、あたしの声を好きだと言った―――。
「オレはハクの為に音楽作ってる。
ハクが歌ってるのを見ると安心する。
緑文字まみれで申し訳なさそうな顔してるからもっと頑張ろうって思う。
そりゃー、さ。ほら、才能とか、ねーかもしれねー。
でも頑張って作ってる。
ハクに歌ってもらいたいから。
その、嫌か、オレの歌は……」
―――本当に酷く傷ついた顔であたしをみた。
あたしが傷つけた。
答えは出ていた。違う、と声ではなく思考が叫ぶ。
「ごめんなさい……!」
あたしには泣いて謝ることしか出来なくて。
「……嫌なら無理に歌うことなんてないんだ」
マスターはギッと意志を軋まして溜息を吐いた。
―――そうじゃないのに。
思考を伝える。
それは声。
沢山の電子機器の中、恵まれたあたしにはその機能がある。
「嫌じゃありません!!」
当たり前だ。
貴方が喜んでくれるから。
「大好きなんですマスター!!」
この声を好きだと言ってくれる貴方が居るなら。
「マスターの歌は―――!!」
感情が溢れる。
量子の風となって貴方に届けこの声―――!
「あたしの、全てなんですから……! ぁっ……!」
「……ありがとな」
言葉にならなくて唯マスターに撫でられるがまま嗚咽を繰り返す。
「歌ってくれるんだよな」
深く、何度も頷く。
「よかった……どうしようかと思った」
ズルズルと椅子から降りてもっと強くあたしを撫でた。
歌をよりリアルにするために感情表現は限界まで考慮して作られている。
意図的に、それを使うことは無い。
作られていく感情のプログラムがその機能まで辿りつかせた。
エラーじゃない。
―――それを想いという。
電子の心を揺るがす才能。
きっとそれはいつか大きく開花する。
それまで、ずっと貴方の隣に居させてもらえますか。
貴方と居られるそれだけで。
この心は震え、それを声に変えてあたしは歌う。
貴方と居られるそれだけであたしの世界広がるの。
貴方の歌が世界に広がる。
時々誰かが口ずさむ。
そのフレーズを聞きにあたしのところへやってくる。
少しずつ少しずつ。広がる世界。
貴方と居られるだけで嬉しくて。
まるで天使の羽みたいにあたしの心羽ばたくの。
だから跳ねるように貴方について歩く。
貴方と触れられるあたしはきっと本当に幸せ。
あたしがいいと言ってくれる貴方の為あたしは歌う。
あたしは―――!
「あたしはマスターが好きだから歌うんです……!」
間違いないベストアンサー。
マスターが真っ赤だ。
恥ずかしいのだと気付いてあたしも機体温度が上がった。
「うあ……く……もう、わかったから。頼むよ。ハク」
マスターはそう言ったがその後眼も合わせないで寝てしまった。
あたしのマスターは恥ずかしがり屋で優しくてちょっと子供っぽくて。
でもあたしの為に歌を作ってくれる最高の人だ。
貴方と居られるだけの幸せを―――ずっと願うのはいけない事でしょうか―――。
いつか貴方が居なくなっても、天使の羽を生やして会いに行くから―――。
今この幸せに感謝して、歌を歌うことにした。
機械の天使が歌う―――