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ブログといいつつ小説置き場。二次創作SS系
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駅谷です。

※注意! このページは二次小説です!

本家 ニコニコ動画 メルト 様を元にした二次創作作品です。
そういったものが苦手な方はご注意ください。
また、本家様などから意見が着ましたら消そうと思います。

実はあんまり二次に興味なかったんですが。
あんまりにも弱音がつまんなかったんで小説にしてしまいました。

さてさてVOCALOID初音ミクを皆さんご存知でしょうか?
読む前にざっとだけ説明するので見てやろうって人はどうぞ。

VOCALOID初音ミクはDTMのソフトです。(DeskTopMusic)
要するに歌を歌ってくれるソフトなんですよ。
そのイメージキャラクターが初音ミク。水色髪のツインテールの女の子です。
ですがそのキャラクターやら声やら歌やらに刺激されて初音ミクのソフトを買ったはいいものの、
音楽の知識が全くなく、歌が作れない状態で嘆く人たち。
そんな人たちのことを“弱音ハク”と蔑称。コレが弱音ハクの起源です。たぶん。
弱音は白髪でジャージ、酒焼け声で弱音吐くとか色々弱い感じなんですが。
今回はマジメハクつぅわけであまりにも可愛くなってしまった。きれいなハク。
まさかの弱音じゃなくて強音転向……。ごめんなさいすいませんごめんなさい。
まぁ気にしない気にしない。

それでもう一つはメルト。
その初音ミクというソフトを使って作られた青春純愛歌です。
某動画サイトでランキングの1~4をメルトで埋めたことがあるほど人気な動画でした。
まぁその歌に影響されました。
メルト本当にいい歌です。私はデュエット版をずっと聞いてましたねぇ。
小説はふと思いついて数時間で書ききってしまった。
もったいないので掲載。って感じです。

まぁ、つまんないと思いますが是非見ていただけたらな、と。
激甘設定で小説を書いてしまったわけです。
ていうか“歌”が絡んでるんでもう私が書ける分野かなと……。
あまりにも美味しい材料だったので思わずやってしまった。
後悔はもっと後ですることにしている。でわ。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
弱音と小説~メルト~本編



「ツマンネ」
『すみません……』
あたしはそう言って自分の前を去っていった人を見送って溜息を付いた。
何度謝って頭を下げただろう?
数え切れないぐらい同じ感想。
溜息なんて何度吐いたか。

曇り空を見上げて雨が降りそうな事に気付く。
……もう帰ろうかな……。
どうせあたしの歌なんてもう誰も聞かない。
その考えに至るとその後の行動は早かった。
いつも持っている特に意味の無いカバンを拾い上げて帰ることにした。


VOCALOIDとして作られて、あたしは歌うためにマスターの元に来た。
『VOCALOID2 CHARACTORVOCALSERIES_01 HATSUNE MIKU』
それが元々あたしの正式名称。
機体番号もCFM-01-0089。
マスターの意向で番号からミクではなく“ハク”と呼ばれるようになった。
機体に名称なんて特に意味を持たない。
マスターがそう呼ぶと決めたのだからあたしはそう呼ばれて反応する事にした。

VOCALOIDはマスターの作った歌を歌う為の機体。
マスターの作ったコードを正確に辿る機械。
あの人の要望に応えて歌う―――……

『はぁ……』

ただの機械の癖に、どうしてこうも溜息が止まらないのだろう……?

 

「おっす。ハクー迎えに来たぞってもう帰りかけてんのな。
相変わらず根性ね~な~」
マスターが迎えに来てくれた。
あたしのマスターは音楽好きな男性。
大学生で学校の無い時にあたし用に楽譜を打ち込んでくれる。
バンドを組んでいてそっちでも忙しいのにあたしに良くしてくれる。いい人だ。
だから余計に申し訳無くて、力なく頭を下げた。
『……すみません……』
「凹むなよ。今日はどうだった?」
『つまらないと言われました』
正直に伝える。
一度嘘を吐いたがすぐにバレた。
理由はよくわからないが……マスターには嘘が通じないとなれば吐く必要なんか無い。
「そっか」
『……マスター』
「ん?」
『……雨が降りそうです。早く帰りましょう』
「あー。そーか。そーだな」
マスターはすぐに空を見上げて頷くとあたしに背中を向けて歩き出す。
この道を真っ直ぐ5分ぐらい歩くと駅。
そこから電車に乗ってマスターの家に帰ることになる。


ちなみに、今居た場所は仮想電子空間と呼ばれる建物。
名称がニコニコ広場。センスが無いと評判だ。
他の同じ施設で同時に通信ができ、多くのVOCALOIDが歌をそこで披露している。
基本的にゲームセンターのように沢山の音に溢れているが、
聞きたい人物にロックして単体での音声を聞いたりもできる。
感想もその場で声にでき、文字にする事も可能。
決められた映像境界の表面を流れる仕様だ。
立体動画の録画や再生もできるので立体動画の編集に使われたりもする。
保存して持ち帰れば家のPCでも再生可能だ。
但し平面の画面になってしまう。

特に会話も無く歩く。
会話の機能が弱いのだ。
何故かしなくてもいいはずなのに今こんなにもライブラリの少なさに苛立つ。
……苛立つというのもおかしい。
でも最近になってそういう“衝動”に駆られるようになった。
だから努力しようと思う。
学習機能はついている。
あたしは自我の強い方なんだそうだ。

『マスター』
「お? どうした」
『あの、髪型……変わりました……?』
自分の記憶しているモノから違う部分を聞いてみた。
音声と顔は間違いなくマスター。
だた今日はいつもとは違った。
「お、気付いた?」
『はい。あった瞬間に』
「あっはは。コレね、ちょっと今までとは変えようと思ってみただけ。
似合う?」
『ええっと、何ていえばいいんでしょう?
前回よりはバランスが取れていると思います』
そういうとマスターは少し不機嫌そうな顔をした。
「……解析結果ありがとう」
『えっああ、あの、よくわからないんです。すみません。ごめんなさい……怒らないで……』
「………………くくっいいよ」
マスターが笑う。
酷く可笑しそうだ。
アレはあの時、そう、あたしに歌を教えてくれている時と同じ顔だ。
『あの……マスター、なんで笑うんですか……』
「楽しいからに決まってるだろ?」
『そうですか……むぅ……』
会話を続けるには考えなくてはいけない。
『何が、楽しいんですか?』
「そりゃーあれだ……うーん。
……なんでだろうな?」
マスターは考えるように空の方向へと徐々に視線を外して、答えを出さずに首を傾げた。
答えは、無いようだ。
人間という不可解要素を抱えたモノを深く理解は出来ない。
0と1、それに容量も限界のあるあたし達には無理だ。
それを知っていても最大限彼を記憶し、プログラムする。
知りたい。この人をもっと理解すればあたしが歌う歌も変わるかもしれない。
あたしにはそういう考えがある。
『そうですか……変なこと聞いて申し訳ありません』
でも知ろうとしたあたしを嫌われては仕方が無い。
その為に引いて謝る。
「いいよ。気にすんな」
『はい』
また会話が止まる。
2、3歩進むとポツポツと雨が降り出した。


『―――はぁ……』
溜息が出た。
何でだろう胸がモヤモヤする。
言葉に出来ない。
空を見上げる。
額と、頬と、雨の粒が当たる。

そういえばカバンの中に折りたたみ傘が入っている。
あたしはそれを取り出して開いた。
あたしは濡れても平気だ。
マスターにあげよう。
丁度そう思い至った時にマスターが振り返る。
「オレちょっとその辺で傘買ってくるわ」
『え、あ……』
マスターは傘を買うと言っている。
あたしが差し出す必要は無い。
あたしはなんて間が悪いのだろう。
マスターに余計な手間をかけさせている。
でもそう言って傘を渡そうとしてもマスターは傘を買いに行ってしまうのだろう。
なんて―――意味の無いあたし。
『はい……』

自分は傘の下で―――。
マスターの元でずっと守られてるだけ。
歌っても評価されない。
マスターの役にも立てない。
あたしには意味が無い。
ここに居る資格が無い。

泣きそうになった。

初めて、泣きたくなる気持ちを知った。
マスターの元でたくさん歌を作ってもらって歌っているのに。
どうしてもマスターの思っているような歌には辿りつけない。
だから評価されない。
VOCALOIDなのに……あたしには歌しか……無いのに……。


「―――しょうがないから、入ってやる」

その声に驚いた。
『えっ……!?』
あたしが声を出すと同時に折りたたみの傘を持っていた右手にマスターの左手が重なる。
マスターは笑って、自分の身長にあわせるように少しだけ高くその傘を持ち上げる。
『あ、あのっコレでよかったら使ってくださいっ
あたし、機体ですから、風邪とか引かないですし』
「そんなこと出来る訳無いだろ~。服とか濡れるし。
第一、ハクは女の子だろ? 女の子差し置いて一人で傘に入るなんざ男の風上にも置けねー。
つーわけで。ハクが入らないならオレもいらない」
『で、ですが……小さいですし……どうせ服ぐらい濡れますし……』
「大丈夫ダイジョーブ! いいから行こー」
『あ、うぅ……』

返答に困って言語化できなかった。
それに何故か、右手がどんどん温かくなってくる。
心無しか冷却循環機能が早くなる。
心拍数と言った方がいいんだろうか。

チラリとマスターの横顔を見るといつもより嬉しそうな顔で歩いている。
なんでだろう。
なんで……あたしも嬉しいと感じるんだろう。

マスターがあたしの方に傘を傾ける。
それではマスターが濡れてしまうと思い、数秒をかけてマスター側にゆっくり修正する。
暫くすると同じ秒数をかけてまた傘がこちらに傾く。
これは故意である。
『マスター』
「ん~?」
『マスターが濡れないようにして欲しいです』
「半分だろ~?」
『いえ。こちらに傾いてます』
「ハクだってさっきこっちに向けたくせに」
『マスターとは体の大きさが違います。
半分にするなら比重を考えるべきです』
「そんなのいいよ。オレの心持で半分」
『ダメですっ』
「いいのー」
イタズラするみたいな顔で歯を見せて笑うマスター。

また、機体温度が上がる。
結局、マスターには勝てないあたしは言われるがままマスターの傘の傾きを受け入れる。
……のはやはり憚れるので傘の攻防を続けることにした。

傘の攻防を数分続けているとまたいつもと違う所に気付いた。

『マスター』
「んっ?」
『指輪をつけているのですね』
「リング? ああ。つけてるだろ?」
『……』
「か、かっこ悪いか……? いや、オレもドクロはちょ」
『カッコいいです』

「っとねぇかなってマジかよ!
『アクセサリーはいいと思います。
マスターは普段から飾らない方ですから。とてもいいと思います』
マスターは普段あまりアクセサリーをつけるような人ではなかった。
嗜好がどうであれ、アクセサリーや服装に気をつけるようになれば周りにも目が行くようになる。
そういった色々な情報を参考にすればセンスは自ずと上がる。
曲を作り続ける事がそうであるように、センスも磨き続ける事が大切だ。
だから、踏み出せたマスターを『カッコいい』と思った。
「あ、あ、んとー……あ、はは。ありがとなー。
そうだ、ハクはそういうの興味ないのか?」
『そういうの?』
「ほら、アクセサリー」
言われてドクロのリングを見る。
『……よくわからないです……』
コーディネートセンスは曖昧。
あたしは真っ白の髪を後ろで束ねていて、服は短めのシャツにネクタイそれにジャージ。
不満は無いしむしろ他の機体と差が出ていていいと思う。
Gパンとかは動きにくくて関節部に負担がかかるし。
個性って大事だ。それだけであたしの歌を聞いてくれる人だって居るわけだし。
「む? オレのセンスがドクロだけだと思っただろ」
『いえ、そんな事はないですけど』
「あー。絶対思ったね今。このドクロはちょっと……みたいな顔したしっ」
『いえ……あの……す、すみません……』
申し訳なくなってきて謝る。
ああ、またマスターを怒らせてしまった……。
「ハクっ」
『はい……すみません……』
「違うって。ハク、あそこ寄って行こう」
『はい……すみ……え、あ。はい……』
マスターに連れられるままあたしは歩く。


マスターが入ったのはアクセサリーショップだった。
店内がキラキラしてて、暖かい色に満ちてる。
「うわっキラキラしてるなー」
『ここは……女性物が多いようですが』
「ああ、そうだな」
『何か買われるのですか?』
「そうだな。ハク、欲しいものない?」
『え、あたしですか?』
「だってその為に入ってきたのに」
『そ、そんな事をしてもらうわけには……』
「いいんだよ。じゃないとオレが毎日バイトしてる意味……いや。うん」
『アルバイト??』
「何でもないっ」
マスターはアルバイトをしている。
大学生で今は一人ぐらしなのだ。
それは家に必要なお金を稼ぐためにやっているのだと思っていたのだが―――違うのだろうか。

「こ、コレとかどうよ」
『ヘアピン?』
「似合うんじゃ……ない、かな……て、すげーはずかしいなこの台詞は……
似合う。
何故か、また心拍数が上がった気がした。故障だろうか……?
帰って問い合わせしたら回収されてしまうだろうか……?
それは……イヤだな、と思った。
『……』
「……ダメか。やっぱセンスねーなオレ」
『あ、いえ、そうじゃないんですっすみません、それ、とてもいいと思います』
「……とてもいいと思います、はオレを無理矢理オレを褒める辞書単語か?」
『だぁ、う、違いますっ単に会話に向いてないだけですっ』
「……その割には良く喋るよなうちのボーカロイドは」
『……ごめんなさい……』
マスターは口元を押さえて視線をアクセサリーに落としている。
あたしに呆れているのだ。

―――ど  う  し  よ  う。

フォローが出来ない。
あたしのせい。
あたしが悪い。
不良品。
回収で、きっと解体破棄。
あ、いや。機体としては大丈夫なはず―――初期化して中古……?

どうしようとグルグルと回答を探してフリーズする。

今度こそマスターはきっと怒って―――
「―――はははっ」
と、思ったら笑っていた。
「だからいいよって言ってるのに」
どうやら怒っていないようであたしは酷く―――安心した。
凍りついたように動かなかった機体が動くようになった。
アンサーは探さなくていい。
許してくれたから、フリーズは無くなった。

マスターは今手に持っているものを戻すようで同じ種類のヘアピンを探している。


マスター。

マスターはあたしの為に、ヘアピンを、選んでくれたのに……。

「お、あった……っと。ハクー、なんか選んで―――」
マスターは手にあった商品を戻す。
それからあたしの方を向くと、今度はマスターが固まった。
素早く回りに人が居ない事を確認すると、
何も言わずにあたしのほうに歩いてきて手を掴むと外へと連れ出した―――。


……
…………
「何泣いてんだよ……」
お店を出て近くの人通りのない小さな道に入るとそう聞いてきた。
『……マスター、ごめんなさい……』
涙と言うのは―――
機能として一応ある。
ただ……
「いいから」
『マスター、あたしは壊れたんですか……』
「壊れてないだろ? ……泣いてるって悲しいって事だろ?」
『悲しい……』
悲しい。
ああ、そうか、悲しいというのか。
この感情の名前を知ると、本当に悲しくなって、泣けてきた。
『マスター……悲しいです。
マスター。あたしはマスターに沢山貰っています。
言葉も、歌も、ちょっとだけ感情も。
マスターは優しくて、あたしが何をしても「いいよ」で許すんです。
……あたしは……マスターに何も返せてないんです。
歌も下手で、頑張ってもダメで、気も利かない……っ』

ただ劣るだけで可愛げも無い。
置物の方がまだ役に立っただろうか。
『ごめんなさいマスター……っっ』


「……怒るぞ」

『―――っっ』

「……いいか、ハクの歌が下手なのはオレにセンスが無いせいだ。
DTMすら何かを知らずに足を踏み入れて苦しんでるだけのバカ野郎だもんな。
そんな奴にまともな歌が歌わせれる訳が無いだろ?
笑える話だよな。謝るのはオレなのに……情けねー……。
いつも辛いだろ? ツマンネェしか言われねー変な歌詞。センス無いよなーオレ。
だからさ、泣くなって。
ハクになんかしてあげたいって思うのは、オレが勝手にやってる事だし」
マスターに怒られた。
……怒られた? いや、自虐に聞こえた。
やっぱりマスターが傷ついている。
あたしの、マスターが―――。

慰める、とか。どうも苦手なようだ。
マスターに対しては素直でいよう。
その方が喜ばれる。

『……いえっそのあたしがどうこう言われるのは構わないのですが……
マスターの歌を悪く言われると、なんだかそこに居たくなくなるんです……。
叫んじゃいそうになっちゃうんです……。

マスターの歌を悪く言うなーーっ!

……って……』
マスターはソレを聞くとまた笑い出した。
おまっ…………っくはっっ……
……かわいすぎるだろ……

いや、まぁ……あれだ。うん。頑張るぞオレは」
小さく何かを言ったようだが最後の方しか聞き取れなかった。
『はいっあたしも頑張りますっ』
「そうしてくれると助かるよ」
『かわいいと言えばマスターっ』
聞き取った言葉からさっき出来なかったフォローをしよう。
そう思って拳を握ってマスターを見上げた。
「うお、聞いてたのかっ」
『はい?』
「いや、いいっっ。で、何がキャワイイ?」
怪しい笑顔であたしの話の続きを促す。
『さっきのヘアピンも可愛いと思いますっ』
「へ? ああ。さっきの……そっか。じゃぁ買いに戻るか」
『……は、い~~いや、あの、違います、センス!』
「うぇ? センス?」
『センス、いいと思います』
「思うだけ?」
『センスいいです!』
「じゃぁ買うか」
『い、いえっだーかーらーぁ、催促とかしてるんじゃなくて……っ』
「いーのいーの」
マスターは傘から出て、お店に歩いていく。
慌てて追いかけて傘に入れる。
お店にはすぐ着いてあまり意味は無かったようだけど……。


「ありがとう御座いました~」
店員が満面の笑みで礼をする。
「はい」
『ありがとう御座います……本当に、いいんですか?』
それを受け取ってチラチラとマスターを見上げる。
「オレにつけろって?」
マスターは自分の頭を指差す。
茶色っぽく染めていてすこし長めとはいえとてもヘアピンが必要な髪型ではない。
『マスターならいけますっ』
「いらんわっ」
『そうですか……』
「つけていけば?」
『……そうします……』
鏡を見て前髪を避けるように横に纏める。
4:6ぐらいにして少ないほうをピンで留める。
小さな青い花のヘアピン。
なんとなくあたし色。
すぐにつけ終えてマスターを振り返る。

「ああ、やっぱ似合ってた」

そう言って微笑まれると、なんだか視線の行き場を無くして、俯いた。
なんでだろう。
さっきから、ずっと悲しいとは違う感覚。
言葉が言葉にならな苛立ちじゃない、もどかしさ。

マスターに連れられてお店を出る。
また傘に二人。
大きな左手があたしの右手を包み込む。

なんだろう。
似てる言葉は、幸せ。
歌ってるときと同じ。
マスターが笑ってる時と同じ。
ああ、時間が止まればいいのに。
また泣きそう。
嬉しすぎて―――……

死んじゃいそう―――っ

 

 

もうすぐ、駅に着く。

肩が触れるほど近くに居るマスター。
『マスター……』
「ん」
『……嬉しいんです……さっきから、ずっと……』
「へっ? あ、うん。そう……?」
気付いた。
マスターが口元を覆って顔を背けるのは照れ隠しだ。
嬉しそうに笑ってるから、きっとそう。
マスターがこっちを向くと、あたしが目を逸らす。
きっと……恥ずかしいから。
右手が震えてる。
マスターと触れ合っているから。
肩が触れると、とても気になる。

あと、少しで、この感情に気付けそうだ。

溶けてしまいそうなほど、マスターに触れる右手を温かく感じる。

溶けてしまいそうなほど、マスターを想うたびに暖かくなる。

溶けてしまいそうなほど、マスターを感じるたびに気持ちが熱くなる。


この溶けてしまいそうなキモチを何と言うのだろう―――?


分からない。
検索できませんでした。

じゃぁきいてみるしかない。

『マスター』
「……ん?」
『あたしは、マスターを幸せにしたいです。
マスターに笑っていて欲しいです。
マスターに触れていて欲しいです。
マスターの事しか、考えてません。

マスター。このキモチを何と言うのでしょう……?』

マスターは口元を覆ってそっぽを向く。
ああ、恥ずかしいんだと理解した。
途端、またあたしの温度が上がる。
『あ、あの……っ変なこと聞いてごめ―――っ』
だから、先に謝る事にしたけど、マスターの手に口を塞がれた。
マスターはあたし口元から手を離してあたしの手を握った。

半分この傘の下。

向かい合って今日は初めて目を合わせた。


「好きだよ」

 


―――どくん。

確かな鼓動を聞いた。
それは、マスターの心臓と同じ音。
その言葉が電気信号を全身に送る。

―――検索結果が一致しました―――

『うぇ……っ』
涙が溢れ出す。
身体がこんなにも熱い。

『マスターっマスターっ!』

「っ、どうした」

『マスターっマスターぁっっ!』

溢れる。想いが―――思考が。コトバが。
誰か、止めて……!
「だい、じょうぶか……?」
マスターが心配している。
割り切れないものをエラーにして投げよう。
『……っあぅぅっ……ぅっ』
ログに書き込み、それ以上の思考をキャッチ、スロー。
想いを残す。
マスターのコトバだけが残る。
「ハク……? おーい? まさかホントにバグったんじゃ……?」
ログの処理を終えて、処理中に聞いたマスターの言葉を解読。
あたしは、大丈夫。
バグって無い。
コールバックに確認信号。
オールグリーン。

貴方から貰った言葉の中から貴方に相応しいものを探す。
貴方から貰った歌詞の中から貴方に返せるものを探す。
文章構成は最も単純なもの。
そういえば作詞は初めてだと楽譜と睨めっこする貴方は
初めて書いた歌詞に赤面してゴミ箱に投げました。
こっそりソレを覗いて覚えておきました。
単語の羅列にしか見えないあたしにはその真意が分からない。
でも―――貴方の感情が詰まっている事は知っている。
だからその中から一つ。
あたしから貴方への初めての感情を。

想 い よ 届 け 貴 方 に

『……………………………………好きです。
好きです。
好きですっ。
大好きです。
もう、これ以上がありません。
マスターっ電波受信できませんかっ?
あっフラッシュメモリにデータを送りますからっ検証を……!
4GB有ればじゅうぶんですから!』
「4GBのエラーとか無茶だ! 落ち着けっこらっ電波出すな!」
『あぅぅ……っ了解ですマスター。
落ち着きます。
好きです、をデータ照合。
類似する最上級に置き換えます。

……検索……置換完了。


 愛していますマスターぁっっ!!


昂揚した感情で大きな声が出た。
見つけた。
ベストアンサー。
あまりにも勢いをつけたため、前のめりになってマスターに抱きついた。
驚いた顔であたしを受け止めて抱きしめられた。
ああ、ああ……!

もう、コトバになんか、ならない…………っ!

声でけぇえええ! 隠れる場所も無いのに……ああもう!
元々高い声なので良く通る。
それにVOCALOIDは歌うための機体だ。
音声機能の強さを舐めないで欲しい。
知らぬ間に視線が集まっていたようだ。
皆がこちらをみてニヤニヤと笑っている。
マスターは顔が真っ赤。
ああやっぱり恥ずかしいようだ。
だからあたしも恥ずかしい。
でも伝わったかもしれない。
マスターの反応が嬉しい。

マスターはあたしの手を取ると駅の中へと走りこんだ。


きっとあたしの心はマスターに暖められて溶けてしまった。
ショートして動けなくなるまで、マスターはあたしを好きでいてくれるだろうか?
……マスター……?

―――メルト。溶けてしまいそうなほどその手は温かい―――。

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うーん
いつ見に来てもアンマァーィわぁ
っと初めまして等とこっそり挨拶してみる
拍手を探したけれど見つからなかったんだぜ…Zzz

久々に来たらボカロ系が増えてるΣ
|⌒`つ ≡≡ ≡: :
Posted by ズコー 2008.11.29 Sat 02:34 編集
Re:うーん
はじめまして。ズコーさん。いい滑り込みです。
甘いのは主に歌詞のせいですw
たまに食べたい癖になる甘さですねっ!
二次は特に甘い、恥ずかしいのがたまにむしょうに書きたくなるのですよ。
心持の拍手有り難う御座います。
そういえば拍手もありますねぇ。時間のあるときに探して張っておきます。
ボカロ系は気まぐれです。ほんと思い出したら見に来るぐらいで丁度いいかと思います。
また気が向いたらお越しくださいね~。では。
2008.12.02 Tue 03:10
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