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ブログといいつつ小説置き場。二次創作SS系
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最近、なんか更新してねぇなと思ったら。
小説リンクサイトの更新報告忘れてたという。
うーん。たしかサーバーメンテで繋がらないとか、パスワードなんだっけみたいになって寄り付かなくなったようなきがしなくもない。
パスはブラウザが覚えていてくれているので、朝電車でやる気にならいんだよねぇ。
んで、まぁいいか!となるわけです。
いや、デバイスをまたぐと色々不便ですねぇ。

とうわけでエキヤです。
余計な事がしたくなってきた。
ので、新式の外伝でも。

新式シキガミ! 勇者と戦女神

何故此処に置いておくのかと言うと、あまり完結する気がしないからです。
まったりめのお話。中途半端に終わる可能性が高いのでシキガミ本編をくまなく読んでる方からどうぞ。

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 彼が目が覚めてすぐは頭に靄が掛かっていた。寝起きは良い方ではないし、そもそもの頭も余りいいとは言えない。傭兵などと言う稼業に身を置いていて、最後の仕事を終えた後に目覚めた彼は青空の下で寝ていたようだった。
 野宿は得意といえるものかもしれないが好んで野宿をしたりはしなかった。体の都合から宿に拒否される事もあったがそれでもなるべく屋根の下で寝ていた。獣の顔が付いているが品性に関してはかなり高いものがあった。
 ゆっくりと腹筋に力を入れて起き上がった。不意に傷が気になってビクリと体を震わせてから体を触ってみた。
 何処にも最後に受けた傷は無い。アレは夢だったか。そんな訳がないと、彼の脳裏に残る痛みが言う。

 考えても仕方が無い、と数秒で蹴りをつけて彼は立ち上がった。
 服装は最後に戦場に赴いた時のままである。

 頭や体に付いた砂を払って、首を鳴らす。
 そこで自分の近くには誰か座り込んでいるのに気付いた。銀色の鎧で、頭に羽付きの兜をしている。
 体格の細さからすぐにそれは女性だと分かった。大きなハルバートを地面に寝かせており、此方の視線に気付いてゆっくりと視線を上げた。

 透き通るような空色の瞳をした白い肌の美しい女性が此方を見て微笑む。しかし何も言いださない。

「此処は何処だ」

 ぶっきらぼうな言葉を発した。彼は酔った友人にそれは良くないと説教をされた事が何度もあるが、直る気はしなかった。きっと直す気が無いからだろう。
 アルベント・ラシュベルとはそういう人物だった。無作為に愛想を振りまいて誰とも仲良くなろうという気は無い。そういう人間を知っては居るがそれに対しての嫌悪感はない。それは自分に合っていないというだけの話だ。
 此方の質問にその女性は立ち上がった。慎重は彼の胸の辺りである。女性にしては大きいが誰を見てもアルベントは小さいなとしか感想を抱かない。そしてその凛とした視線を彼へ向ける。アルベントには透き通った目に映る自分が見えた。

『ヴァルハラと言います』
「ヴァルハラ……」
『ここは戦士達が次の戦場への転生までここでお待ち頂く事になっています。
 何をお求めになって下さっても結構です。全てに応える事が出来ます。
 何なりとお申し付けください』

 その言葉で彼は自分の状態を理解した。

 要するに自分は死んだのだろう。それに気付いて彼は急に全ての記憶を振り返った。

 最後の記憶では胸に傷を受けた。肩から腰元までをばっさり斬られたはずだ。伝説の剣士と対峙しての結果だ。
 悔いは無いが、自分に勝ちをくれた友人たちに泥を塗ってしまったのではないかと少し気になる。そんな事を気にするような人間達ではなかったがその行き着く先には珍しく興味があった。きっと世界を変えただろう。

 自分の手には未だに戦斧がある。ここがヴァルハラ――戦士の魂を集める場所だと言うなら自分にはまだ戦うという運命があるのだろうと考えた。
 それを問う為に彼女に言った。

「次の戦とは」
『神々の戦争。終末戦争……ここが貴方のような勇者が活躍する最前線となります』
「それはいつだ。私は誰と戦う?」

 もはや意味のない質問かもしれない。
 誰とだって構わないのだろう。
 彼女は優しい微笑から言葉を発する。

『神々と。最高の戦いを』

 女性は恍惚とした表情で語る。
 狂気に似た感覚を感じてアルベントは戦慄した。そしてわからないな……と、彼はため息をついた。
 色々と知らない風景が多すぎる。
 歩かなければ話になるまい。

『ご案内します』
「何処までついてくる」
『貴方の戦斧が如く』

 つまり離れる気は無いと言う事か。状況は飲み込んだが彼女に付いてはどういう存在なのかが明らかになっていない。

「ふむ……一人で歩きたいと言ったら?」
『では後ほどおよび下さい』
「どう呼ぶ。そもそも貴様は何者だ」
『メラミルト。
 私は戦女神メラミルトと申します。
 お好きなように呼んで頂けると喜んでまいります。
 呼ばれなくてもお夕食前には現れます』

 違和感を感じる。戦女神というのは冗談を言うのか。
 親しい友人がよく、戦女神に殺される苦労話を聞かせてくれた事があるが、実際には与太話としてしか捕らえていなかった。確かに戦女神が居ると言う事自体は信じられる現象として存在していたが、それと会って戦う事が出来るというのは信じるに値しなかった。信じた所でどうにもならないと思ったからだ。だから適当な日常会話だと思って流していたに過ぎない。

「メラミルト」
『はいっ』
「復唱しただけだ」
『こちらも返事をしただけです』
「……」
『……あのう。私は邪魔ですか』

 瞬時に、緊張感がほぐれたような気がする。まるで街娘のような反応に少し拍子抜けした。

「いいや。一人で歩く方が覚えるだろう」
『アルベント様は、あまり街の様子は気にかけないと思われます。
 そもそも、ヴァルハラは何かや街の所在について聞いてこず、戦争の話だけだなんて、どれだけ戦闘狂ですか。
 素敵過ぎます』

 褒められたのだろうか、アルベントは首を傾げた。
 まぁ、別に消えろと言うほどでもないか。無駄話も長くなると飽きる。
 彼女は此方の話を無視して目の前に広がる街を掌を広げて撫で付けた。

『目の前に見える国はアヴァロン。

 貴方のような命名英雄になると私のように付き人があてがわれ、丁重にお世話する事が決まっています。
 城から共同住宅まで何処で暮らすのも構いませんし、劇場、闘技場、酒場、宿どの施設もいつでも利用できます。
 ちょっとアレなお話ですが夜はある意味お昼よりも賑やかかもしれません』

 宜しくない話を聞いてぴくりとアルベントの耳が動く。
 傭兵ともなればその手の話はなれてはいるものの、他人の事情に巻き込まれることほど腹立たしい事は無い。心の奥底からどうでもいい事を見せ付けられるほど不快なものは無い。夜は静かに寝たいものだと彼は思う。

「……もっと節度は保てないのか」
『ちなみに意図的に無視は行えます。お互いに五感すべてで感知できないという手段でですが』
「それを早く言え。どうやってやる」
『はい、そうなりました』
「何をした?」
『貴方が拒むのならば最初からそうでした』
「わけがわからんな……」
『さあ、貴方の全てを受け入れる準備がここにはあります。
 ジパングに行けば多少は節度が上がると思われますが』
「ふむ、まだ国はあるのか」
『明確に国はありません。地域という認識です。アラン方角の最果てです。エルドラドと並ぶ黄金の国ですよ。
 ブリョウトウゲンを経由します。ブリョウトウゲンは中々卓越した者の多い場所です。
 逆に向かえばシンアルの野から行けるバベルの天空塔……そして幻獣の聖地アトランティスがあります。
 海にはたくさんの島も点在しています。クロッカー、サンニコフ、ロス・ジャルディン……。
 きっと、飽くなき世界で居られるように此処は出来て居ます』

 言われただけでは想像力の乏しい彼には何があるのかは分からなかった。大体話を理解した先からは足を動かすのがアルベントのやり方だ。
 それぞれがどんな場所なのかは見てから理解すればいい。そう頭に残して、ここは違う世界だ

『案内させてくれないのはアルベント様ではありませんかっ! もっとお話ししたいです』
「戦女神はそんなに喋りたがるのか」
『それぞれ違います。私は喋りたいです。
 あのう、つかぬ事をお聞きしますが』
「なんだ」
『お喋りな戦女神は嫌いですか……』

 少し眉を顰めて不安気にも見える表情で聞いてきた。別にアルベント自体は良く話す人間とは楽で付き合いやすいと思う程度の認識だ。喋られることには慣れているとも感じる。
 そんな意志の総意を言うと、こうなった。

「……どうでもいいな」
『よかった!』
「どうでもいいと言ったが喜ぶ要素はあったか」

 自分でも酷い言い返しだなと思った矢先にそう返って来て驚いた。中身はもしかしたら自分が知る限り最もポジティブな友人に似ているのかもしれないと思ってまじまじと見た。

『ありました。“どうでもいい”はプラスです。
 本当に私好みです。鬣もふもふさせてください』
「だめだ」

 全くその戦女神と言う存在が分からなくなってきた。そもそも威厳を感じなくなってきた。赤いコートの友人に似ている。彼も自分の置かれた位を気にした事があるのかと問えば確実に無いと答えるだろう。

『いつか解きほぐして見せます。心も鬣も!』
「ふん。どうでもいい。
 案内する気があるのか無いのか」
『します! この街のお店は基本的には傭兵の方が気まぐれに営業しています。
 爛れた日常をご希望なら其処の酒場と宿屋が一体になっている所をご利用になられると宜しいかと思います』
「お前の押しはさっきからおかしい」
『この世界においては、権力、金、素敵な異性が言葉一つで揃います。
 それを伝えると大体一番に求められるのは私達なのですが……。いえ、確かにそうでない方もいらっしゃいますが、英雄色を好むと古来よりありまして』
「そうか。確かに傭兵稼業には女癖が悪いのが多いが」
 あとは酒癖が悪い奴も多い。
 まァ楽園に来た訳だ楽しまない訳にはいかないだろう。
 適当に脳内で落ちを付けて結局まぁいいかと思う。彼は自分の中で結論が出てしまえば急激に興味は失われる。
 あたりを見て街並みの把握はした。大体迷う事は無いだろうか。しかし大きな通りぐらいは歩いておぼえておかなくてはと思って彼女に視線を戻した。
「メラミルト」
『はい』
「案内してくれ。この辺りを一望できる場所だ。
 できれば大通りを通って遠回りで。地理を把握したい」
『ええ、おまかせください。
 初デートは私が完璧にエスコートして見せます!』
 何を意気込んでるのかは知らんがまぁいいか。
 とりあえず置いて行くようにすたすたと歩き出す。
『ああ! 先導します! 案内します! 見捨てないでください!』
 
 饒舌な彼女に引きずられるように街を廻った。
 要望通りに大通りを廻って延々と街の説明を続ける。あの店は量が多いとかあの店は酒の取り揃えが豊富なこと、あそこのクレープは絶品だとか。そういう説明を聞くうちにふと疑問に思って口にする。
「味の優劣は付くのか」
『モノに関してはプラングルと同じです。
 あの時のアレが食べたいという要望にこたえられるようになっています。
 そもそも生活基準は英雄皆さまの基準に合わせる事になっています。食事はどうでもいいからベッドを良くしろとか、逆もまた然りという感じです。欲求は英雄様それぞれです。
 っと、着きました! 此処がこの街で一番高い場所です』
「ふむ。良い眺めだ」
 大きく十字に分かれた道を中心に四方均等に長い道が延びて居た。

『あのう……』
「どうした?」
『……いえ。あまり煩く説明するのもどうかなと思ったのですけれど。
 街はいつでも私が案内します』
「それは私がこの街を覚えなくていいという理由にはならない。何より私がそうしたいのだ」
『それは失礼を。街並みを見ていただけるのは光栄な事です』

 注意深く眺めるように目を細めてアルベントは景色を見回す。両腕を組んで難しい顔をしたままだったが暫くして一つため息をついた。

「……ふむ。手を出してこないと言う事は私に恨みがあるものではないな」
『えっ。むしろ感謝とか忠誠とかが溢れてますよむしろ』
「メラミルト。お前じゃ無い。階段の方に居る奴だ」

 そう言うと彼女は今までのどんな事よりも機敏な動きで振り返った。
 その振り返った視線の先には誰の姿も無かったが、少し経ってパチパチと拍手をしてそいつが姿を現した。正体を知っていたアルベントは今更自分に何用かと眉を顰める。

「アルベント・ラシュベルだな」
「そうだが何か用か」

 焼けた肌に鋭い瞳が光る。白いフードでその身に何を持っているかは見えないが――彼は双剣の主だと知っている。アルベントは武器に手をかける事も無くただ尊大に、余裕の有る対応をした。
 曲剣の双剣は自分が最後に参加した大会で砕けた。宝石の雨を降らした奇跡と共に消えた彼の名は永く語り継がれるであろう。

「ああ。折角ヴァルハラに来たんだ。強い奴とは戦っておきたくてな。いつから気付いていた」
「初めからずっとついてきていただろ」
「驚いたな……何故分かった」
「見えて居たからに決まっているだろうつかず離れずだったな」
「ははは、驚いた。ああ、失礼。自分はシンドバッド。コソ泥だった男だ」
「知っている。命名を言わないのか」
「まさか。大義賊なんて胸張って言う事じゃなかろうが」
「いいや。その名に合った見事な死だった。
 誰しもがその名を胸に刻んだろう。
 胸を張れシンドバッド。お前の生き方はあの場に居た皆が認めた」
「……それはどうも」
「で、与太話をしに来た訳ではないんだろう」
「いやそれもあるのさ。見つかるのも一興だと思っていた」
「ストーカー趣味なのか?」
「失礼な。得意ではあるが趣味じゃない。
 なに、アンタとは手合わせし損ねてる。
 気がかりだったのはあの後の勝敗だ。イチガミコウキは優勝したか?」
「いいや。私が勝った。
 勝ったがあの男は仲間に優しすぎる。私を傷つける事も無く終わった」

 勝つ気はあったのだろう。作戦を練って居たのだと言う。アルベントが優勝の宴で聞いた話では飛びついて首元に剣を突きつけるまでに幾つかシュミレーションが成されていた。
 作戦を立てて動きを洗練するという戦い方は衝撃だった。経験値で動いているアルベントとは違う。お調子者で馬鹿馬鹿だと言われては居るが、あんなに頭のいい戦い方をする剣士に会ったのは初めてだ。

「事実上の最強決定はなされていない訳だ」
「そもそも最強など、剣聖にイチガミコウキが勝った時点で決まっている話だった」
「……そうか」
「否定はしないか」
「曲がりなりにも自分を葬った男だからな。認めてるさ。
 だから剣聖と戦いたかったが剣聖は此処に居ない」
「剣聖が? 何故だ」
「さあ。戦女神が言ってたが“神隠し”にでも会ったんだろうってさ」
「神隠しか……私は見た事は無いが、実際どうなんだ」
「さあ。貰いものを見せびらかして遊ぶ奴らとは違う“イチガミコウキの必殺技”だ。
 イチガミコウキが存在感の塊みたいなやつだからこそ剣の存在を隠す。
 コウキに気を取られれば剣が刺さる、かといって剣を見上げるとコウキが刺しに来る」
「ああ、もう一回戦いたくなった。
 あんたは勝ってるから悔しく無いだろうが」
「手加減されて悔しく無いと思っているか?」
「まぁ本気でぶつかれるのは悪者の特権だからな」
「まだ剣を持つ前のコウキに私は負けている。
 勝敗など、ついていたも同然だった。
 あの負けが人生で一番悔しかった。しかし負けが無ければ私の人生に二度と光差す事は無かっただろう」
「……良い負けを貰ったな。
 しかし、油断大敵の意味を知る最たる相手だった。驕りが無ければ負けなかっただろうか」
「ああ確かにな。恐ろしいのはあの洞察力だ。ここぞと言う時に踏みこむ勇気も素晴らしい。
 勇者は彼にこそふさわしいと心底思った」
「ははは!」

 シンドバッドと話すうち、彼は少し気が和んだ。思い出話など年寄り臭いことだが剣を交わした相手の話は盛り上がる。
 特にコウキについてはお互いに負けを食っている。いずれか此処に来る事になるなら彼とは本気で戦いたいと心から思っていた。あのまま剣の修行を積めば全盛期のトラヴクラハと呼ばれる程になるだろう。しかし彼は頭がいい。恐らく剣は捨ててしまう。剣の先に彼の求める安寧がない事はとっくに分かっているのだろう。

『貴方が“勇者”です』
 今まで黙って傍観していたメラミルトがシンドバットとアルベントの間に手を差し込んで声を出した。
「どうした急に」

『誰が何と言おうと、貴方が“勇者”でした。
 自ら進んで最前線に立った数も、救った人間の数も計り知れない。

 これ以上貴方を侮辱するなら許しませんよ』

 どうやら怒られているのは自分らしいとアルベントは彼女の目を見て分かった。
 誰が何と言おうと、と言うのは恐らく自分が勇者に相応しくないと感じた事だろう。
「眩しい物を見ちまうと、随分と惚れこむように出来てるもんだ」

 シンドバッドはそう言って一瞬だけメラミルトを見た。

「ここじゃどいつもコイツも、昔をひっくり返しちゃあガキみたいな目をして語るんだ。
 勝ちも負けも全部、俺達にとっちゃ宝物だったんだな。
 戦女神も同じさ。今更後悔なんて聞かされちゃあ堪ったもんじゃねえってことだな」

 いつの間にか彼の傍らにも一人の戦女神が佇んでいた。眼を閉じていて話は聞いていないように見える。
 アルベントは何を考えているのか分かりづらい戦女神だなという印象を抱いた。しかし初めの印象など当てにはならないなと自分の近くに居るメラミルトに視線を戻した。何故か少し険しい視線を向けられた。

「しけたな。暇になったら闘技場に来てくれ。
 あそこは永遠に戦い続ける亡者ばっかりがいる。
 アンタも、こっち側だろ?」

 そう言って返事も聞かずにその二人は去っていく。気配も無くなり塔の下から出て行く二人も見えた。もう自分達を追ってきているものも居ない。

 ふむ、とため息をつくと景色を振り返る。遠くに見える日は赤く染まっている。
 結構な時間を歩いた事を示してくれる。

『もう日が暮れます。
 元の家と同じものも用意出来ますが如何いたしますか』
「ふむ」

 さてどうするか。腹は減らない。眠くも無い。
 家は断ろう。ソードリアスにあればいいのだ。管理はクロードに任せっぱなしで、万が一自分が戻らなければ売るなり住むなり好きにすればいいと言ってある。高級宿にすると笑っていたが、多分そうなるのだろう。
 あちらの世界なら思い出に思い耽る事は無く、毎日鍛錬か仕事かを繰り返していた。生きていればそうしただろう。
 しかしここでは恐らく身体が衰える事は無い。
 自分の時間は止まってしまった。
 やる事が無くなってしまったとたん残るのは三大欲求程度で、故にヴァルハラでは思いのままに過ごしているのだろう。別にそれ自体を悪いとは言わない。彼女やシンドバッドが勧める通り正しい楽しみ方なのだろうから。
 しかしふと思いついた事があってそれを言ってみる事にする。

「メラミルト」
『はい』
「私は旅に出ようと思う」
『生前もそうだった気がしますが』
「そうかもしれんな。だが。仕事以外の視野はもっていなかったからな。
 旅をしよう。本当はあちらの世界でやればよかったかもしれないが」
『それは……貴方が誰かを模するからですか』
「ふむ。それはコウキの話の続きか?」
 彼女は喋らずにアルベントを見返した。そうだと目で訴えかけていた。
「恐らく違う。彼に付く旅も楽しいだろうと思うがな。
 勇者と呼ばれた私をそれに相応しいと思ってくれているのならあの言葉は謝ろう。
 ただ、私は勇者だと豪語する気は無い。
 それは命名された時からずっと思っていた」
『それが何故かを聞いても宜しいでしょうか……』
「私は傭兵に恐れられていた。
 気兼ねなく仲良く出来て居た仲間ですら、命名を受けた瞬間に凍りついたような表情になった。以後は私に“従う”ようになった。
 異形の強さを世界に知らしめたというわけだ」
『強さに従うのは当然の事ではありませんか』
「そうだな……慕われていた訳ではない。
 傭兵は傭兵で奇妙な絆がある。
 皆使い捨ての存在だと言う事に気づいていた。
 軍に入る事を目的にしている奴もいれば好きでやってる奴だって居る。
 共通の目的は金でしかない。だが報酬の為にと手を上げると必ず呼応する。
 皆必要な物の為に命を燃やす志士なのだ。それは好ましい事だった。
 恐れてつき従わないからこそ、個が強かった。
 無謀の中で成果を出し続けた事が、きっと勇者だったのだろう。
 付き従う者が増え、私は傲慢になった。
 自分の強さで振り回し、結局皆私を恐れ誰もついては来なくなった。
 自棄になっていたら、大道芸人にされてた。
 何をやっているのかとは常々思っていた。金のためだと傭兵の理屈で納得していた。

 私が叱責されたのはそんな時の話だ。
 あの時の私は勇者では無かった」

 一目見て正しいと分かる人間には付いていきたくなるものだ。そういう意味では傭兵の中で強かった自分に付いてきた者達は正しい。
 己が強くあろうとする事を忘れていた。誰よりも自由の中で生きて、誇りを失わない生き方を選んでいたつもりだった。

「逃げて居た事に気付いた。
 彼に八つ当たりだったそれを一蹴されて目が覚めた。
 私の戦場はそこではないと。
 それ以降はただ戦った。
 私が掲げた正義の為に斧を振った。

 ……私は勇者になれていただろうか」

『そうでしたよ。ずっと前からです』
 そう言った彼女の目に屈託は無かった。
「そうか」

 それ以上言う事も無い。随分喋った気がする。
 自分にしては珍しい。懺悔でもしたかったのだろうか。幸い目の前に居たのは戦女神。懺悔の相手としては申し分なかっただろう。

「幻滅させたなら、すまなかった。
 ああ、だが。
 肉体が永遠なこの世界でも私は強くなれる。

 だから旅をする。

 強い者しか居ないこの世界で、私の価値を見よう」

 そう、この世界には強い者しか居ない。
 己が意志の元で剣を振り続けてきた猛者ばかりだ。
 アルベントはその意味のある剣と渡り合えば自分の位置が分かるだろうと思った。

『楽しそうですね』
 彼女は微笑んでそう言った。
「ああ、こんなに心躍るのは久しぶりだ」
『壁がある方が燃えちゃうタイプなんですね。
 激しく突き破るのが快感だと』
「そうかもしれんな」
『私は痛いの大丈夫なので!』

 異性としても魅力的であるのが戦女神だ。皆若く美しく、英雄の為に存在するのだと言う。そんな中でも異質なのでは無いだろうか。

「おかしいな。スイッチはオフになったと聞いたが」
『私をオフにする気ですか!? そんなに魅力ないですか!?』
「よくわからんが、戦女神はもっと殺伐としてると聞いたことがある。
 背を向けても殺しに来ないと言う事は実は戦女神じゃないのか?」
『私を疑うんですか!? 確かに戦いは大好物ですけど、其処まで節操無く人を襲いません! 後ろからなんて!
 それはそういう信頼関係を得てからです!』
 よくわからないこだわりがあるらしい。人の拘りには無理に口を挟まない方が賢明だが、場合によっては自分が痛い目を見る話だ。もう少し聞いておこうかと口を開いた。
「いずれ襲うと」
『そりゃあそうですよ!』
「お手合わせは歓迎だ」
『はい! 激しくぶつかり合って行きましょう!
 あと抱きつかせてくださいよ!』
「だめだ」

 変な奴だ。これだけ面白ければ暇する事は無いだろうと少し笑って歩き出す。

「行くぞ」
『何処にお泊りになりますか』
「今日は疲れが来るまでは歩く。
 目的地は無い。付いてくるか?」
『勿論ですっ』

 再び彼女は屈託の無い笑顔で笑う。
 従順な召使いのようなつもりらしい。彼がそう扱うかどうかはまた別の話だけれど。

 こうして――アルベント・ラシュベルとメラミルトの旅が始まった。

 奇妙なめぐり合わせに出会うまで、あと数日。
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